196 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします  [sage saga]:2010/12/19(日) 17:19:18.96 ID:OznCmsg0
第一話 クリスマス・イヴ


ハァ、と吐き出す息が白くなる年の瀬も近いある日、御坂美琴はとある公園の自販機前に居た。
本日は12月24日、クリスマス・イヴである。正確には24日の夕刻から朝までをクリスマス・イヴとして祝うのだが、敬虔な十字教徒でもない彼女にはそれよりも大事なことがある。
今日はある人物との待ち合わせをしている。

(…………そろそろ、時間よね)  

待ち合わせの時間まで後10分を切った。今日は白井や初春・佐天達と待ち合わせという訳ではない。
気になるアイツ、というかいつも考えているアイツこと上条当麻との待ち合わせだ。

右手には今日の為に作ったプレゼントの手編みのマフラーが入った袋を下げている。
ベタといえばベタだがそれが彼女らしいとも言える。
ちなみにだいぶ前から制作作業には入っていたのだが、白井の目を盗むのに苦労したためギリギリまで掛かってしまった。

(私服で来たけど、この格好変じゃないかな?)

今日の美琴はいつもの気品爆発常盤台の制服ではなく、彼女によく似合うこの日の為に購入した私服だ(どんな服かは各自で妄想しよう)
これは恥を偲んでまで佐天と初春に相談をして揃えた物だ。客観的に見て可愛いと思うし、自信もある(その対価として上条との事を根掘り葉掘り聞かれたが)
だが相手は『あの』上条だ。ちょっと、いやかなり不安になる。

とは言え、今回はいつかの罰ゲームとは状況が違う。上条だってそれなりに意識するはずだ。
何と言っても――

(今日は、デート、なんだから……)

197 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします  [sage saga]:2010/12/19(日) 17:20:04.42 ID:OznCmsg0
――――――


遡ること数日前――

『はぁ、24日ですか? 別にいいけど……』

美琴の耳に通話口から聞こえてきたのは若干気怠げな声。相手は勿論上条だ。
いつもならこのやる気のない声に文句をいう所なのだが、内容が内容だけにそれはどうでもいい。

「ほほほほんと!? ほんとにいいの!?」

『だーっ! 電話口で怒鳴るんじゃねーよ!』

ダメ元で何気ない振りを装って聞いてみたら軽くOK。その事で美琴のテンションは一気に振りきれた。
ついつい大声で聞き返すのも無理は無いだろう。

「わ、悪かったわね……。じゃ、じゃあ24日! 例の自販機の前で待ち合わせだからね!」

『はいはい了解ですよーっと。んじゃ上条さんはこれから補習なので、またな』

「う、うん。それじゃ」

通話終了の画面を見つめたまま美琴はしばし放心状態だった。
顔はぷしゅーと擬音が付きそうなほど真っ赤で頭からは湯気が出ている。 
やがて意識を再起動させるとベッドの上を顔を両手で覆ってゴロゴロと転がりだした。

(あああああああ!!! つい勢いで誘っちゃったあああああ!!! だだだだって24日よ! クリスマスイブよ! いくらアイツが鈍感だからってさすがに気づくわよ!?)

24日に異性と待ち合わせ、それすなわちデートの意。
その誘いに応じてくれたということは――

(OKしてくれたってことは…………そう思って、いいのよ、ね?)

ぎゅっと携帯を両手で握り締め、美琴はクリスマス・イヴへと思いを馳せた。
198 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします  [sage saga]:2010/12/19(日) 17:20:39.29 ID:OznCmsg0
――――――


ぼんやりと数日前のやり取りを思い出している間に、気づけば約束の時間を10分ほど過ぎていた。

(遅い! 何やってのよアイツは! こっちは遅れないようにだいぶ前から来てるっていうのに!!)

だいぶ前、約束の時間の30分は前から美琴は待ち合わせ場所についていたのでかれこれ40分ほど待っている事になる。
だと言うのに未だ上条が来ないことで美琴の怒りは結構いいところまで来てるようで、前髪の辺りでバチバチと危険な音がしている。  

(が、我慢するのよ私……。いくらなんでも今日はアイツに電撃浴びせるのは自重しないと……)

今日は何と言ってもデートなのだ。いつもの様に感情のまま電撃をぶっぱなしては雰囲気ぶち壊しだ。
それどころか最悪デートそのものが流れてしまうかもしれない。
と、デートデートと頭の中で連呼したことで美琴が怒り以外の感情で顔を真っ赤にした頃、ようやく上条が待ち合わせ場所へと現れた。 

「おーっす御坂、悪ぃな遅れちまって」

「! お、遅いじゃないのアンタ! こういう時は男が……」

ようやく上条が現れたことで美琴は顔の表情を緩める。
が、これでは示しがつかないと思いすぐに不機嫌そうな表情を作って上条の方を向く。
電撃はダメでも文句の一つ二つは言ってもバチは当たらないだろうと口を開いた美琴の言葉が途中で止まった。 
何故なら、そこに居たのは上条一人ではなく――

「な、なんでアンタがここに……」

「む、短髪。なんでって言われても私達はこれから教会のミサに行くんだよ」

ちょっと顔をしかめて不機嫌そうなインデックスが当たり前のように上条の隣に立っていた。
199 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします  [sage saga]:2010/12/19(日) 17:21:26.18 ID:OznCmsg0
「……………………………………………………………………………………え?」

美琴はあまりにも予想外な事に思考が追いついていかなかった。
教会のミサ? そんな訳がない、だって今日は上条とのデートの筈なのだ。その為に服やらプレゼントやら頑張って用意したのだ。
だから上条は一人でここに来ていなければいけない筈なのだ。 

「まあそういうわけだからさ、要件は手短に頼むな」

「え? え?」

「どうしたんだよ、なんか用があるから呼び出したんだろ?」

「え? だって、あの、今日は24日、よ?」

「だな」

「……クリスマス・イヴよ?」

「そうだな。あ、御坂は珍しく私服なんだな? もしかしてこれからデートか? ならお前も早く要件すましたほうがいいんじゃないか?」

羨ましい事ですね、とか上条さんはデートなんて無縁ですよ、等の上条の愚痴を聞いたことでようやく美琴は理解した。
上条はデートの誘いに応じてくれたわけじゃないんだと。 

「………………う、うう」

つまり上条は美琴のことなど全く意識していないのだと宣言しているのだ。
今日の日のために頑張って、期待して、幸せだった気分が全部一気に吹き飛ばされ、同時に涙が出てきた。

「あ、あれ? 御坂さんはなんで涙目なんでせう?」

さすがの上条も美琴がポロポロ涙を流し始めた事に狼狽する。
まずい事を言ったか? と思ったが(上条には)そんな心当たりもない。
どっか痛いのか? とか的はずれな心配をしだしたが、そんな上条についに美琴の我慢が爆発した。

「馬鹿ああああぁぁぁぁ!」

バリバリバリバリバリ!!!!! と、過去最高の電撃が美琴から発せられた。

「ぎゃあああああ!!!!!? え、なんで!? や、やめて御坂さん! 上条さん死んじゃう!! 死んじゃうから!!!」

「うっさいアンタなんか死んじゃえばいいのよこのクソ馬鹿野郎!!!」

「なんでそこまでお怒りにいいいいいぃぃぃぃ!!!!???」

今までの電撃は何だったのか? と言わんばかりの凄まじい電撃が休む間もなく上条へと浴びせられ続けた。 
そしてこのやり取りだけで事態を把握したインデックスはため息混じりに「とうまは少し罰を受けるといいかも」と言い残しさっさと一人で教会へと向かった。


ちなみにこの日、美琴は上条に対して初めて白星をあげた。決まり手は手編みのマフラーによる絞め落とし。
デートは出来なかったけどプレゼントだけは渡せたようです。

202 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします   [sage]:2010/12/19(日) 20:15:48.85 ID:lg0BRSwo

このネタすげぇ好きwwww
美琴可愛すぎる・・・
203 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします   [sage]:2010/12/19(日) 22:49:57.99 ID:ZwBeAIQo
乙~
いくらなんでも上条さんこれはねーよw
美琴が可哀想だろ…

208 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします  [sage saga]:2010/12/21(火) 20:11:53.27 ID:k/mZmrM0
第ニ話 バレンタイン



今日も相変わらず美琴は日課である上条の捜索を行っていた。とは言ってもいつもとは違い、きちんと目的を持って探している。
本日は2月14日、バレンタインデー。目的は勿論チョコを渡すこと。
だというのに日が沈むまで探しても上条が見つからない。もう帰ってしまったのかと思い、電話やメールを送るが返事もない。

もしかして無視されてる? と美琴が少々弱気になっていたところでようやくフラフラと歩く上条を発見した。

「やっと見つけた! アンタ、こんな時間まで何やってたのよ!」

美琴が声をかけると上条はこちらを向き開口一番「げっ、御坂……」と心底嫌そうな顔で言い放った。

「……げっ、とはずいぶんなご挨拶ね……ってアンタ、なんでそんなボロボロなの?」

遠目では分からなかったが、近くで上条を観察すると全身ホコリまみれで制服には所々穴があいてたりする。
トレードマークのツンツン頭も心なしか垂れ下がり、元気なく見える。
またなにか厄介ごとに巻き込まれたのだろう。 

「実は上条さん、今日とてつもない不幸な目に遭ってしまいましてね……。だからこれ以上の厄介ごとは勘弁願いたいなーと思うわけでして……。帰っていい?」

「アンタ、喧嘩売ってんの?」

数時間探した挙句、会って30秒での帰宅宣言。
美琴のイライラが一気にレッドゾーン手前まで振れ、バチバチと前髪辺りで危険な音がする。

「め、滅相もございません!」

間髪入れずに謝り倒す情けない様子に美琴は「なんで私はこんな奴なんかに……」とブツブツ言っているが上条には聞こえていない。

「ったく、まあいいわ」

今日はこんな下らないやりとりをするために上条を探していたのではない。
美琴は鞄から綺麗にラッピングされた箱を取り出し「はい、これ」と言って上条に差し出す。恥ずかしいので顔はそらしているが。
箱の中身はもちろんチョコレート、しかも手作りだったりする。

「……………………もしかしてこれって、チョコか?」 

「そ、そうよ」

さすがの上条もそれがチョコであったと気づいたようだ。
上条は若干震える手で受け取り箱をマジマジと見つめると徐々に涙ぐんでいった。

「……………………うう」

「ちょ、ちょっと! 何で泣いてるのよ!」

「ぐすっ……す、すまん。上条さん、今日はいろいろあってチョコを1個も持ってなくて……」
209 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします  [sage saga]:2010/12/21(火) 20:12:32.06 ID:k/mZmrM0
 美琴は知る由もないが、上条は人生でワースト3にも入る不幸イベント(記憶を失ってからの短い期間だが)に遭遇している。

バレンタインという事で旗男振りを遺憾なく発揮し大量のチョコを貰った上条。
一見すると幸せイベントだが、その事で嫉妬に狂った男達に街中を追い回されボコボコにされたのだ。
でもってボコボコにされてる間に撒き散らかしたチョコは掃除ロボ達が美味しくいただきました、ごちそうさま。
あわれ上条の元に残ったのはホワイトデーのお返しという負債のみとなった。

そんなどん底の精神状態でちょっと優しくされたら涙ぐむのも無理は無い。 

「へ、へー、よく分かんないけどご愁傷さま……。ってことは、私のチョコ以外は持ってないんだ?」

「まーな……。上条さんは危うくチョコの獲得個数が0個になるところでしたよ」

つまり美琴以外から本命チョコが渡った可能性はゼロと言う事だ。
上条には悪いと思いつつも、美琴は心のなかで「よしっ!」と小さくガッツポーズを取っていた。 

「そんなわけで義理とはいえ御坂さんには大感謝! これじゃ不幸とは言えねーな」

美琴は小さくため息を付いてから「義理じゃないんだけどなぁ……」と呟く。上条には聞こえないように。
それでも予想以上に上条が喜んでくれた事が嬉しい。もちろんにやけそうになる顔は全力で自制している。

「感謝するのは良いけど、ちゃんと無くさずに食べるのよ。なくしたら承知しないんだからね!」

「勿論だって! この上条当麻、命に変えてもこのチョコは死守します! んじゃ、ほんとサンキューな! またなー」

「ちゃんと今日中に食べなさいよー!」

「おーう」と言いながら走り去る上条を美琴は小さく嘆息し見送る。
そして徐々に小さくなる上条の背中を見つめながら美琴は思う。 

あわよくばチョコを渡したときに一緒に告白もしたかったが、やっぱり無理だった。そう簡単に告白できたら苦労はしない。
だが今回は秘策がある。チョコの箱に告白の文言を書いたメッセージカードを仕込んでいるのだ。
勘違いされないよう内容はストレートに、自分と相手の名前まで書いて。

(アイツ、どんな反応するかな……)

期待と不安で胸がいっぱいになり、しばらくの間上条が去った方向を見つめ続けることしか出来なかった。
210 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします  [sage saga]:2010/12/21(火) 20:12:58.52 ID:k/mZmrM0
 そんな複雑な胸の内を抱えた美琴とは違い、上条は軽い足取りで家路へとついていた。
捨てる神あれば拾う神あり、今日が人生ワースト3の不幸な日と言うのは訂正されるだろう。 
まあ神は神でも拾ってくれた神は気難しい雷神様なのだが。

「たっだいまー!」

上々の気分で部屋のドアを開けた瞬間、上条は凄まじい重圧を感じた。

「………………」

「あ、あれ? インデックス、さん?」

ドアを空けてすぐの所に、重圧を発している大元であろうインデックスは立っていた。
顔はうつむき加減で上条の位置からは良く見えないが、多分怒っているのだろう。
それを証明するかのように、飼い猫のスフィンクスが部屋の隅でプルプル震えてたりする。

「……とうま、今が何時だかわかってるのかな?」

インデックスの抑揚のない言葉を聞き、若干冷や汗を書きながら現在時刻を確認する。時刻は午後8時12分。
数瞬の間を置いて上条は気づいた。猛獣への餌付けを怠ったというとてつもなく大きなミスに。

つまり! 上条は飢えた猛獣の前に生身を晒す愚を犯しのだ!

「私は! 飢え死にするかと! 思ったんだよ!」

「す、すまんインデックス! 今すぐに夕飯にするから!」

慌てて夕飯の支度にとりかかろうとするが、時既に遅し。
部屋に入る間も与えずにインデックスはギラリと光る牙を上条へと突き立てた。

「とうまのばかあああ!!!」

「んぎゃああああ!!!? や、やめてインデックスさん!!! 痛い痛い痛い!!」

頭部を走るギリギリとした痛みで鞄から手を離してしまい、地面に落ちた拍子で中から美琴に貰ったチョコが転がりでる。 
「あ!」と思ったときにはもう手遅れで、どこからとも無く現れた掃除ロボが「ゴミノポイステハヤメマショウ」とチョコを素早く回収した。
水瓶座の今日の運勢には『円柱型の機械に気をつけましょう』と書かれていたに違いない。

インデックスに噛み付かれたまま呆然とその光景を見て、上条は今日という日がワースト3に入ると言う考えを訂正した。
だって今日は間違い無くぶっちぎりで人生のワースト1になんだから。 

「不幸だ……」

それ以外の言葉が出てこようはずもなかった。



ちなみに上条からいつまで経っても返事が来ないので、美琴はかなり本気で落ち込んでいた。
結局二人とも仲良く不幸だというお話。



216 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします   [sage]:2010/12/22(水) 01:19:52.21 ID:zQikze6o
早く報われて欲しいぜ…

219 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします  [sage saga]:2010/12/30(木) 03:40:02.51 ID:YWnq/u60
第三話 告白


二月もほとんどが終わり、暦の上ではまだ冬で寒いとは言え少しずつ気温も上がって来た。
それを証明するように周囲では所々で草木が鮮やかな色を纏い出す。もうすぐ春が訪れるのだ。

だというのに美琴の心は厳冬の真っ只中、と言うか氷河期に突入しそうなほど寒々としている。
今日もいつもの面子(白井・初春・佐天)とお茶でもしようと誘われていたが、とてもそんな気分になれず辞退。
だからと言って寮に帰る気にもならず気晴らしをしようと一人宛もなく歩き続ける。

そんな気分になる理由は、未だに上条からチョコと一緒に渡したメッセージの返事が来ないせいだ。

(なんで何にも言ってくれないのよ、あの馬鹿は……)

既に美琴がチョコを渡してから一週間以上経過している。
最初の二、三日こそ期待半分不安半分で上条の返事を心待ちにしていたが、四日五日と経つに連れて美琴の心は不安一色に塗りつぶされていった。
返事が来ないなら自分から催促してしまえ、と思うかもしれないがそう簡単なものでもない。
美琴から見れば、今の状況は告白を完全に無視されていると取れてしまうのだ。それはつまり何を意味するのかと言えば

(私、嫌われてたのかな……)

一度その考えが頭を過ぎってしまえば、もう自分から相手に連絡など取れなくなってしまう。
理由は単純に怖いから。自分が好意を寄せていればいるほど、その相手に嫌悪されるのは恐ろしいものだ。
また、過去の自分を鑑みれば嫌われても何らおかしくないと思わせる程の黒歴史確定な行いの数々の後押しもあり、美琴の思考はどんどん深みへと嵌っていった。
220 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします  [sage saga]:2010/12/30(木) 03:40:31.44 ID:YWnq/u60
「御坂?」

「っ!?」

ぼんやりとしていたところに良く知った声をかけられ、美琴はビクリと体を震わせる。
恐る恐る声の方に振り向くと今一番会いたくない人物、上条当麻がそこにいた。

なんでこんな時に限って、と美琴は思うが出会ってしまったのなら無視するわけにもいかない。

「…………あ、アンタこんな所でなにしてるのよ」

「何って、家に帰る途中だよ」

「え……あ、あれ? 私いつの間にこんな所に……」

ふと周りを見渡してみればここはいつもの公園だ。
上条と遭遇する可能性のある所に足を運ぶとは余程ぼんやりしていたのだろう。
嫌われているかも知れないと思うからこそ連絡も取らずにいたのに、これでは本末転倒だ。

「なあ、何かあったのか?」

「え……?」

「お前さっきまですごい暗い顔してたぞ?」

「……心配、してくれたの?」

「あんな顔してたら当たり前だっての。知らない仲でもないんだしな」

上条に軽く微笑みかけられたことで美琴はようやく気づくことが出来た。嫌われているかもしれない、なんて馬鹿な考えだと。
そもそもこのお人好しが誰かを嫌いになるなんて想像できないと言うのに。
221 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします  [sage saga]:2010/12/30(木) 03:40:57.58 ID:YWnq/u60
「そっか、ありがと……」

でもね、と落ち込む事になった元凶に向かって続ける。
胸に渦巻いていた暗い感情が取り除かれたことで、代わりに沸々と怒りが湧いてきた。

「誰のせいで落ち込んでたと思ってんのよアンタは!!!」

「って、ええ!? お、俺のせいなの?」

「アンタ以外誰がいるのよ! (アンタが全然返事くれないから、私はアンタに嫌われてるんじゃないかって……)」

「うん?」

「な、なんでもないわよ! ……で、いつ返事してくれるのよ?」

「返事って、何のだよ?」

「メッセージカードよ! チョコと一緒に入ってたでしょうが……見たん、でしょ?」

美琴は顔を真赤にして俯き、語尾に近づくにつれ声はどんどん小さくなる。
チョコと一緒に渡したカードを読んでいるなら気持ちはちゃんと伝わっているはずなのだから。

対して上条の顔からはどんどん血の気が引いていく。言葉にするなら「やべぇ、これが死亡フラグって奴ですかそうですか……」と言ったところか。

「あ、あのですね、御坂さん。落ち着いて聞いていただけると嬉しいのですが……」

「う、うん……」

向かい合った二人はお互い緊張で心拍数は限界まで上がっている。
残念なのは緊張の理由にずれがあることだが。

「ご……ごめんなさい! 色々あってチョコ無くしちゃいましたあああぁぁぁ!!!」

「………………は、はぁ!?」
222 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします  [sage saga]:2010/12/30(木) 03:41:27.14 ID:YWnq/u60
目の前で土下座中の上条を見ながら美琴は頭を抱えた。

(私が悩んでたのはなんだったの…………)

一週間以上嫌われているかもしれないと恐怖を抱え込んでいたのだ。
オチのアホらしさに電撃の制裁を行う気力も起きない。

「うう、申し訳ありません……。でもきちんとお返しはさせていただきますので…………。それで、あの、差し支えなければメッセージカードの内容など聞かせていただければと……」

「え!?」

予想外の言葉にドキーンと美琴の心臓が跳ね上がる。
いつもなら上条に電撃を浴びせて終わってる場面なのだが、美琴にその気力がなかったことが災い(幸い?)したようだ。

「やっぱり、メッセージカードにするぐらいだから言い難いことなのか?」

「えっと、それは、その……」

言い難いに決まってる。
カードに自分の気持ちを書くだけで比喩でなく何十回と思考がショートしたのだ。
それを口頭で伝えるなんて美琴にはハードルが高すぎる。それこそ一方通行に喧嘩を売るほうがまだ気が楽だ。普段なら。

「まあ、無理に言えとは言わないからさ。ごめんな、俺不幸のせ「言う!!!」御坂?」

気がつけば美琴は口を開いていた。
上条に嫌われていなくてホッとしたとか、酷いオチに力が抜けたとか色々理由はあるだろう。
それ以上に、今日この流れで告白できないなら自分はずっと告白できない、そんな気持ちが美琴を後押しした。

「言うから…………ちょっと、気持ちを落ち着かせる時間くれない?」

「あ、ああ、別に構わねーけど」
223 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします  [sage saga]:2010/12/30(木) 03:41:58.49 ID:YWnq/u60
「………………………………………………」

「………………………………………………」

美琴は胸の前で両手をぎゅっと握り締め、俯いたまま一言も発さない。
上条も美琴が何を言うかまでは分からなくても何か重大な決心をしているのが分かったようで、緊張した面持ちのまま美琴が口を開くのを待っている。

五分か十分か、或いは一分も経ってないのか。重苦しい空気の中漸く美琴が口を開いた。

「あ、あの! か、上条当麻、さん!」

「は、はひ!」

美琴が上条の名前を呼ぶのも、上条が美琴に名前を呼ばれるのも初めてだ。そのせいで余計に緊張したのかお互い声が上ずっている。
おまけに上条は背筋をピンと伸ばして気をつけの姿勢になってる。
だが、いつもならちょっと笑ってしまいそうな様子も美琴の目には入っていない。と言うより何も見ないよう目を硬く閉じている。
なけなしの勇気を振り絞るため、外部の情報シャットアウトしているのだろう。

「私、その、ずっと前、から……」

おそらく告白が終わるまで、周りで何が起こっているとか上条がどんな顔をしているとかそういう事には一切気づかないだろう。
気づく余裕が無いとも言う。

それでも美琴は勇気を振り絞り、意を決して最後の一言を口にした。が、

「ずっと、ずっと前から好「御坂!」きゃっ!?」

告白が終わるか終わらないかのタイミングで美琴は腕を引っ張られ、何かに強く包まれるのを感じ、なにか硬いものがぶつかる音が耳に入った。
美琴が恐る恐る目を開くと目の前には見慣れた学生服。包み込んでいたのは力強い腕。
224 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします  [sage saga]:2010/12/30(木) 03:42:33.98 ID:YWnq/u60
「あ、う……え、えっと……」

美琴は勇気を振り絞って告白をした。結果今、上条に抱きしめられている。
それを確かめただけで美琴は意識が飛びそうになった。が、上条の行為はそれだけでは終わらない。
美琴が硬直しているのを良い事に上条は自分の頭を徐々に下へと移動させ始めた。

「ひゃん!」

突然首筋に柔らかく生暖かい感触を感じ、聞いた本人が一番恥ずかしくなるような艶っぽい声を上げて、同時に腰を抜かして膝から崩れ落ちてしまう。
何とか転倒こそしなかったものの、そのままの勢いで上条は美琴を地面に押し倒す。
告白の返事としてはいささか過激ではなかろうか。っていうか完全にアウトだ。これが若さという奴なのだろうか。

勿論そんな事をされてしまえば恋愛事に免疫の無い美琴はまともな思考など出来るはずもない。

(だだだだダメよこんな!! いいいや別に嫌って訳じゃなくアンタがどうしてもって言うなら別に構わないんだけどでもやっぱり外は嫌だからアンタの部屋なら良いけどでもやっぱり学生なんだから健全なお付き合いから始めるべきだけどでもちょっと興味があるしいずれはそういう関係にもなるんだから――)

以下略と言った感じになっている。
ふにゃーと気絶していた方がマシなのか微妙なところだ。
225 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします  [sage saga]:2010/12/30(木) 03:43:25.47 ID:YWnq/u60
「えっと、大丈夫……?」

不意に頭上から(非常に申し訳なさそうに)小学生ぐらいの男の子から声を掛けられ、遠い世界に旅立ちかけていた美琴の心臓は今日一番の拍動を強いられた。

「は、はははいいいい! な、なん、なにかな!? って、こ、こらアンタ! いい加減にし…………あれ? ねえちょっと、どうしたの?」

ここで美琴はようやく上条の様子がおかしいことに気づく。何度声を掛けてもゆすっても反応がないのだ。
と言うかいくらなんでも他人がすぐ傍にいる状況で動こうとしないのは明らかに普通じゃない。

そう思い上条の状態を確認すると頭にはタンコブまで出来ているし、目は完全に白目を向いている。要するに気絶していた。

「ごめんなさい、僕の飛ばしたボールがお兄さんの頭に当たっちゃったみたいで……」

美琴は上条に抱き寄せられたときに硬いものがぶつかった音を聞いたのを思い出した。
多分それがボールが頭にぶつかった音で、上条はその時から気絶していたのだろう。

(って事は、ま、まさか……)

上条が美琴を押し倒したと思っていたが、別にそんな事はなかった。
226 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします  [sage saga]:2010/12/30(木) 03:43:59.90 ID:YWnq/u60
何とか上条の下から這いでた美琴は、少年と二人がかりで上条をベンチまで引きずって行きそこに寝かせた。ちなみに美琴の膝枕だ。
ボールをぶつけた少年はというと、日が落ちてきたこともあり美琴が半ば無理矢理に帰らせた。
もちろん渋ったが、ここにはよく来るからまた会えると伝えるとようやく帰ってくれた。
その際不意打ちで「デートの邪魔してごめんね」と言われて美琴はほんのちょっとだけ漏電してしまった。上条が感電したように見えたが気にしてはいけない。

「デート、ねぇ……」

ふと、美琴はクリスマスイブのデートを思い出し憂鬱になる。
あの時の上条はありえないほど鈍感で今思い出しても腹がたつ。
ならばとその後はもっと直接的に気持ちを伝えようとすれば、プレゼントしたチョコを無くしたりボールが飛んできたりと散々だ。

「ほんっとアンタの不幸は筋金入りだわ……。でも、逆に言えばアンタが私に好かれるのは幸せって事なのかしら? だったら良いんだけど」

「……御坂」

美琴が自嘲気味に微笑むと、それに反応するように上条の口から美琴の名前が呼ばれる。

「あ、アンタまさか起きて!?」

上条に意識があるのかと思い美琴に緊張が走るが、耳を済ましてよく聴けば「無事かー」とか「上条さんはなぁ」とか言っている。
どうやただ寝言を言ってるだけで、起きたわけではないようだ。
227 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします  [sage saga]:2010/12/30(木) 03:44:43.02 ID:YWnq/u60
「はいはい私はちゃんと無事ですよ。ったく、驚かせるんじゃないわよ……」

上条の寝言を聞いたせいだろうか、言葉とは裏腹に美琴は笑顔をみせている。
あの少年によれば上条は美琴の身代わりになってボールに当たったとのこと。ちょっと不謹慎だが嬉しくもなるというものだ。

だから礼をしようと思うのは自然な事だろう。

(うん、これはお礼。お礼をするだけ、なんだから、頬に、その、するぐらい変じゃないわよ、ね?)

誰が聞いたわけでもない言い訳を心の中でし終えると、美琴は周囲をキョロキョロと見回してから、上条に顔を近づける。
どうやら上条への礼とは頬へのキスのようだ。どちらかと言えば美琴の欲求が前面に出ている気がしなくもないが。
上条が感知しないところでは妙に大胆な行動に出る少女である。

とは言えいくら上条に意識がなくとも緊張はするようだ。
その証拠に上条に顔を近づけるほどに美琴の心臓の動きはどんどん加速していく。

(あと、ちょっと……)

美琴の顔が限界まで近づいたとき、





どこに潜んでいたのか空間移動で現れた白井黒子が器用に上条にだけドロップキックを炸裂させた。
228 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします  [sage saga]:2010/12/30(木) 03:45:15.00 ID:YWnq/u60
白井に蹴りとばされた上条は地面を転がっていったが、それでも目を覚ました様子はなく地面に突っ伏している。
対して何故か被害ゼロの美琴は、突然のことに錯乱気味だ。

「ななななな何!? って、黒子!? な、なんでアンタがここに!!」

「お、お、お、お姉様!! いいいいい今あの類人猿に何をしようとしていたんですの!?」

「ごめんなさい御坂さん! 白井さんが暴れださないように私達で見張ってたのに……」

「う、初春さんに佐天さん!? な、なんであなた達まで!!」

「いやー、御坂さんの様子がおかしかったから、様子を見ようって話になっちゃいまして」

美琴の背中に嫌な汗が流れる。

「ち、ちなみにいつ頃から居たのかなー、なんて…………」

「えーっと……御坂さんがベンチで膝枕を始めた辺りからですね、あはは…………」

「きいいいぃぃぃ!! 何故お姉様はあんなクソ類人猿などに!!! 認められませんのぉぉぉぉぉおおおおおおおおお!!!」

分かっていたが、やっぱり全部見られていた。

「あ、は。あははははははは………………」

美琴はひとしきり乾いた声で笑った後、突然「うわあああああん!!!」と叫びながら逃げ出してしまった。

「「御坂さん!?」」

「お、お姉様!! お待ちになって!」

美琴が逃げ出したことで、三人は慌てて美琴の後を追っていく。
騒がしかった公園は原因達が去ったことで一気に静かになった。

一方残された上条はそれを待っていたかのように起き上がると、いつも通り「不幸だ……」と呟いた。
たが、いつもとは違いそれはひどく辛そうに聞こえた。


231 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします   [sage]:2010/12/30(木) 07:22:57.48 ID:9jceRu.o

良いところで邪魔しやがって
232 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします   [sage]:2010/12/31(金) 02:32:34.70 ID:QNfiCcgo
美琴かわいいww



243 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします  [saga sage]:2011/03/08(火) 22:26:00.27 ID:Sk4BGxe70
第四話  


「はぁぁぁ…………」 

学校からの帰り道、上条は一人大きなため息をついていた。 
足取りはとぼとぼと力無く、睡眠不足なのか目の下には隈ができていて、いつものツンツン頭も心なしか元気が無い。誰が見ても憔悴しきっている。 

憔悴している原因、それは上条が持つある悩みによる。 
その悩みのせいで夜はろくに眠れず、昼間はずっとぼんやりとしているか、時折頭を掻きむしったり今のように溜息をつくばかり。 

もちろんそんなあからさまに「僕悩んでいます」といった空気を発していれば、上条の周りの人間が放っておくわけがない。 
具体的には隣人の金髪アロハは十八歳未満お断りな書物(すぐにインデックスに見つかって破棄された上、制裁を受けた)を横流ししたり、カミジョー属性完全ガードを誇るはずのクラスメイトがやたらと優しかったり。 
終いにはインデックスに「も、もし家計が苦しいんなら、御飯の量を減らしても構わないんだよ」と涙目で血を吐くように見当違いの心配をされた。 
さすがにこりゃイカンと上条は自慢の素敵演技力で平静を装い、それに伴い心配されることもなくなった。 
もっとも、周囲の人間はそれに気が付き気を使って普段どおりにしているだけなのだが。 

そんな演技も一人になればする必要もなく、深く溜息をつく。 

「はぁぁ……何やってんだろうな、俺」 

先程学校からの帰り道と書いたが、上条は普段使わないルートで家路にとついている。 
理由は、とある人物との遭遇を避けるため。 

「御坂……」 

御坂美琴、上条が悩みを抱える原因となった少女の名前である。 

会うたびに電撃を飛ばしてくるのが悩み、という訳ではない。 
甚だ不本意ではあるが、慣れてしまって今更悩みになどならない。 
そもそも最近はほとんど電撃を飛ばす事はなくなったし、性格も以前に比べ大分丸くなってきている。 

では一体どんな理由か? 
話は数日前、第三話終盤まで遡る。
244 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします  [saga sage]:2011/03/08(火) 22:27:07.33 ID:Sk4BGxe70
―――――――――― 


ビリビリビリッ! 

(んがっ!?) 

後頭部にダメージを受けたことで気絶していた上条だったが、体に走る痺れにより意識を取り戻した。 
何事かと思い、うっすらと目を開けると何かに目を向ける美琴の顔を下から見上げる状態だった。 
更に意識がはっきりし、頭の後ろに柔らかい感触を感じた事でようやく自分の置かれている状況を理解できた。 

(膝枕ですか……) 

恐らくは美琴を飛んできたボールから守った時に気絶し、その事で美琴が自分を介抱してくれているのだろうと当たりをつけた。 
役得だなと思い、上条はもうしばらくこの感触を堪能しようと寝た振りを決め込んだ。 
ついでに美琴の独り言でも聞いて後でからかおうと。 

それがいけなかった。 

「ほんっとアンタの不幸は筋金入りだわ……。でも、逆に言えばアンタが私に好かれるのは幸せって事なのかしら? だったら良いんだけど」 

へっ? と思わず間抜けな声を上げてしまうところだったが、上条はなんとかそれを飲み込むことに成功した。 

だがそんな事よりも、美琴は今なんと言ったのか?  
自分はなにかとんでもないことを聞いてしまったのではないか? 
決して盗み聞きなどしてはいけないようなものを。 

『アンタが私に好かれるのは幸せって事なのかしら? だったら良いんだけど』 

心の中で美琴の言葉をなんども反芻する。 

(どういう意味だ? 俺が御坂に好かれるのが幸せだったら良い? なんでそれが良いんだ? だってそれだと……いや、そんな馬鹿な……) 

「…………御坂」
245 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします  [sage saga]:2011/03/08(火) 22:36:42.10 ID:Sk4BGxe70
美琴の衝撃的な独白が上条の頭の中でグルグルと回り続け、上条はつい美琴の名前を口にしてしまった。 

「あ、アンタまさか起きて!?」 

(!! ま、不味い!!) 

「御坂ぁ……無事かー…………上条さんはなぁ……」 

とっさに寝言を装うと、美琴はそれに安心したのか強張った体を弛緩させ大きく溜息をつく。 

「はいはい私はちゃんと無事ですよ。ったく、驚かせるんじゃないわよ……」 

うまく美琴が寝言だと思い込んでくれたことで上条が安堵する。 
が、それもすぐにさらなる衝撃で覆い被されることになる。 

(ん、なんだ?) 

自らに影がかかった事を感じ、上条は美琴に気付かれないよううっすらと目を開ける。 
するとそこには熱に浮かされたような瞳で上条を見つめ、徐々に顔を近づけてくる美琴の顔があった。 

(え!? な、なんだ!? どうしたってんだ!?) 

突然の事態に上条が混乱している間にも美琴の顔はどんどん上条へと近づいてくる。 
普段なら美琴のこの奇行にとぼけた答えを返す上条だが、今回ばかりは違う。 
先程の美琴の独白を聞いたことで混乱してはいるが、美琴の気持ちに気づきつつある。 
だからこれが何を意味するのかを、幸か不幸か上条はきちんと把握してしまっている。
246 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします  [sage saga]:2011/03/08(火) 22:37:22.53 ID:Sk4BGxe70
(んまままままさか御坂さん、ちっすを!? 上条さんにちっすをするつもりですか!?) 

上条とて『健全な』高校生なのだから、女の子とそういった事をするのもやぶさかではない。 
が、男としてこの展開はいかがなものかという思いもある。 
というかぶっちゃけ経験がないから期待よりも緊張するほうが上回っている。 

――ちなみに言っておくと、美琴が狙っていたのは頬であって口ではない。あしからず。 

そんな上条の考えとは裏腹に既に美琴の顔は吐息を感じ取れる位置まで近づいていた。 
美琴の暴走を止めるには上条がここで起きてしまえばいいのだが、このタイミングでそれをやるにはあまりに都合が良すぎる。 
下手をすれば狸寝入りをしていたことバレてしまうかも知れない。 
それだけは避けなければならないのだ。 

かと言ってなにか打開策を思いつくわけでもない。 
焦るばかりの上条だったが、そこに幸運? にも救いの足が差し伸べられた。 
位置で言うと上条の頭頂部と側頭部の丁度中間辺りにゴギャッ! といい音で。 

(あ、なんかデジャブ) 

ちょっとおしかったなと思いつつ、上条は白井の怨嗟のこもった飛び蹴りをくらい美琴の元から吹っ飛んだ事でその場を乗り切ることはできた。 
とは言え痛みでしばらくの間は動けなくなるほどだったが、周囲の様子を鑑みればこのまま気を失ったふりをしていたほうがいいので大した問題ではない。 

美琴達は一悶着の後、上条以外の全員が去って行った。 
上条はそれを確認してから起き上がりようやく安堵の溜息を着いた。 
ただ、美琴の気持ちを盗み聞きしてしまったことによる強い罪悪感が彼の心に残ってしまったが。 

「不幸だ……」 

いつもと同じ言葉だが、いつもと違う意味を持つ言葉を口にした。 
この場こそ乗り切れたが、一体これからどう美琴と接したらいいのか上条には分からなかった。

257 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします  [sage saga]:2011/04/22(金) 01:50:27.73 ID:K3QmWlWK0
第四話―② 


元気いっぱいに走り回る10歳前後の少女とそれを必死に追いかける常盤台の制服を身につけた中学生の少女。 
二人の顔立ちはよく似通っていて、傍目から見れば姉妹だろうと言う事は容易に想像がつく。年齢差さえなければ双子と言ってもいいほどだ。 
そんな二人の様子を御坂美琴は笑みを浮かべた顔で見つめていた。 

「待ちなさいこのクソガキ! とミサカはミサカ最終武装の封印を解きます!」 

「前回も結局捕まえられなかった癖に懲りないやつめーっ! ってミサカはミサカは挑発してみたり」 

ガシャガシャガチャチャ!! と自分と同じ顔の少女がなんだかよく分からない凄い重火器(非殺傷兵器だと思いたい)を装備し、自分と同じ顔の幼女を追いかけて行くのを美琴は引きつった笑みを浮かべて眺めていた。 
美琴の片手には御坂妹の物と思しきごつい軍用ゴーグル。どさくさに紛れて打ち止めから押し付けられたものだ。 
無論御坂妹もそれには気づいたようだがゴーグルを持つ美琴を一瞥し、打ち止めへの制裁を優先し追いかけて行った。 
少し状況は違うが以前にも似た様な事があったなー、と懲りない二人を見て美琴は軽い頭痛を覚えた。 

そう言えば、と目の前の頭痛の種となっている光景から現実逃避気味に美琴はあの時御坂妹に言われた言葉を思い出す。 

「お姉様は素直になれないのですか、か……」 

今はあの時とは違う。 
少なくとも自らの気持ちはきちんと自覚し(美琴基準では)格段に素直になった。 
むしろ、元来のツンとした態度がなければ気持ちが漏れ出してしまうほどだ。 

……まあ、実際漏れてしまった訳なのだが。漏れたというより噴出したと言った方が正しいほどに。 

「うう……」 

美琴は数日前の出来事を思い出すと羞恥で顔中の血管に血が集まり、自然と視線が下を向く。 
上条の意識がないのを良い事に、と言うか上条に意識がない事で余計な意地など張る必要も無くなり、結果酷い醜態を晒してしまった。 

更に酷いのは後輩達にその一部始終を目撃された事。 
今まで生きてきた中での忘れたい過去ランキングぶっちぎり堂々の1位、どころではなく煌びやかに飾り付けられた看板に『殿堂入り』とか表示されてる。 
学習装置で三人分の記憶の改竄するのって幾ら位でやってくれるのかしらとか、自分の能力で脳内の電気信号弄って記憶の改ざん(白井への実行直前で我に返った)できないかなかなーとか、結構まじめに考えたりする。 

唯一の救いといえば、そのとき上条の意識がなかった事ぐらいだろう。 
万一にも知られたら恥死(羞恥のあまり死ぬの意)という新しいカテゴリの死因を開拓した人物として歴史に名を残したかもしれない。 

(まあ、最悪の事態にならなかったんだから前向きに生きていかないとね) 

と、ようやく気を持ち直して顔を上げると、先ほど前追いかけっこをしていた姉妹達の姿は見えなくなっていた。 
どこに行ったんだろと周囲を見回すと、 

「……へ?」 

代わりに覇気のまったく感じられないウニ頭と目が合った。
258 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします  [sage saga]:2011/04/22(金) 01:51:38.93 ID:K3QmWlWK0
―――――― 


「……ぁ」 

頭を垂れたまま歩いていた上条が前方に人の気配を感じ目線を上げた瞬間、小さく呻き声を上げた。 

(みさ、か……) 

唐突の邂逅にドクンドクンと心臓が早鐘を打ち、にもかかわらず顔から血の気は引き全身からは汗が噴出しそうになる。 
一瞬で限界まで見開かれた上条の目に映るのは今も自分の頭を占有し続けている人物、それと全く同じ様に肩口で切り揃えられた茶色の髪。 
身を包むのは見間違え様のない超名門校の制服。 

そして右手に持っているのはこれまた見間違えようの無いごつい軍用のゴーグル。 

(って妹の方かい!!) 

ほっとしたのが半分、ガッカリしたのが半分。 
勝手に心の中で突っ込みを入れつつ上条は体の力を抜いた。 

(って! 何ちょっとガッカリしちゃってるんですか俺は! それじゃ御坂に会いたかったみたいじゃねーか! 好かれてるから好きになっちまったってか? ないないありえない) 

上条の好みは基本的に年上のお姉さんタイプであり、美琴をはじめとする年下の娘への興味はほとんど無い。 
だから少し好意寄せられたぐらいで好きになってしまう事はありえない、ガッカリするのはおかしい。そう自分に言い聞かせる。 

(だいたい、あんな最低な事しちまった俺にそんな資格は――) 


――アンタが私に好かれるのは幸せって事なのかしら? だったら良いんだけど 


「っっっ!!!」 

その言葉を思い出す度、上条は強い罪悪感に苛まれる。 
ただ、罪悪感以外の感情の何か――未だ小さなモノではあるが――を感じる事も本当は分かっている。分かっては、いるのだが……。
259 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします  [sage saga]:2011/04/22(金) 01:52:32.63 ID:K3QmWlWK0
自らの思考に没頭していた上条がハッと我に帰ると、美琴同じ顔の少女が目を大きく見開いて呆然とこちらを見つめているのに気づいた。 
正直今は心に余裕がないので誰かとの接触はあまり持ちたくない。 
とは言え至近距離で顔を合わせて無視する訳にもいかず、上条は気づかれないように小さくため息をついてから妹達の一人と思しき少女に声をかけた。 

「えーと、久しぶり? 初めまして? 悪いな、10032号だっけ? アイツ以外は未だに見分けがつかなくってさ」 

以前に美琴との区別をつけるためにプレゼントしたアクセサリーをつけていない所を見るに、10032号以外の妹達の一人だと当たりをつけて話しかける。 
が、目をパチクリさせた後キョロキョロと周りを伺うだけで返事がない。 

「どうかしたか?」 

「……は? え、え? わ、私? ええっと……」 

「あれ? もしかして御坂妹だったか? 今日は俺があげたアクセサリーつけてねーのか?」 

『俺があげたアクセサリー』と上条が口にした瞬間、ビキッ! と目の前の少女が額に青筋が走らせているが上条は気がつかない。 

「い、いえ。わた……ミ、ミサカはミサカ11111号です……とミサカは笑顔で自己紹介します」 

笑顔をと言いつつ頬はヒクヒクしていてどう見ても無理やり笑顔を浮かべているようにしか見えない。 
しかし上条はそれに気づかず「そっか、じゃあはじめましてだな」とのんきな事をのたまっている。 

「と、ところでアン……あなたはここで何をしていらっしゃるのですか? ……とミサカは尋ねます」 

「う……い、いや、それはだな……」 

途端、上条は視線をそらし落ち着きがなくなる。 
何気ない問いかけなのだろうが、内容が内容だけに答えづらい。 
まさかストレートに「あなた達のお姉さんに会いたくないからです」、などと言えるわけもない。 

そんな事が目の前の少女がわかる筈もなく、歯切れの悪そうにしている上条を訝しげに見ながら少女は口を開いた。 

「あのさ、何か悩んでるなら相談に乗ろ……りましょうか? とミサカはおずおずと問いかけます」
260 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします  [sage saga]:2011/04/22(金) 01:53:10.64 ID:K3QmWlWK0
少女の問いかけにしばし上条は押し黙る。 
確かに悩んでいる。少なくとも記憶を失ってからでは最大の悩みといっていい。 
相談という形で心情を吐露したい思いもある。 

だからと言って「美琴が俺のこと好きみたいなんだけどどうしよう?」なんて相談が出来る訳もない。 
知ってしまった経緯もアレなものだし、そもそもとして未だ上条本人ですらに美琴が自分を好いているなんて荒唐無稽な話にしか思えない。 
言っても恥をかくだけだ。 

「ミサカではダメでしたらお姉様に相談してみてはいかがでしょうか、とミサカは自らの姉をプッシュしてみます」 

上条の沈黙を拒否の態度と判断したのだろう、特に追求することも無く姉を名を出したが上条的にその選択はありえない。 

「い、いやその、別にお前がダメって訳じゃなくてだな……。っていうかむしろダメなのは美琴の方と言うか……」 

「な、何でだめなのよ!!」 

「ちょっ! な、何で急にバチバチいってんだお前!? って言うか明らかに他の妹達より電気が力強いですよね!?」 

この少女は他に比べて姉想いの個体なのか、美琴ではダメと聞くや妹達とは思えないほどの電気を帯びて上条を威嚇し始めた。 
と言うか姉に匹敵するんじゃないか? 怒ると口調までそっくりになってるし。勘弁してほしい。 
冷や汗をダラダラと流しながら上条がそんなことを考えていると、ようやく少女は我に返ったようで電気を収めた。 

「――コホン、し、失礼しました。つい興奮してしまいまして、とミサカは謝罪します」 

「い、いや気にしてませんから。はは、ははは……」 

「それは良かったです。では何故お姉様ではあなたの相談相手にふさわしくないのか、その辺りを く・わ・し・く お話していただきましょう、ミサカは詰め寄ります」 

完全に目を据わらせる詰め寄ってくる少女にに上条は「うっ」と呻き声を上げ後ずさろうとしたが、いつの間にかガッシリと腕を掴まれていたのでそれは叶わなかった。 

「い、いや、だからそれはだな……」 

「ああ、ここでは話し辛いのですね。でしたら場所を移動しましょう、とミサカは気を使ってみます。さあさあ」 

「だからそうじゃな「あ?」……行きます」 

ドスのきいた声を出す少女の気迫に屈した上条は成すがままズルズルと引きずられていった。 

「ふ、不幸だああぁぁぁぁ……」 

変なところばっかり姉に似ないでほしいと思ったが怖いので口には出さなかった。

270 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします  [sage saga]:2011/06/09(木) 02:18:00.02 ID:tQ1L++vf0
第四話―③ 




本日の天気、晴れ。強い北風が吹くので温かい格好をしてお出かけ下さい。 

「きゃっ!」 

ビュゥーッ、と時折強い風が吹く度ただでさえ短いスカートがめくれ上がりそうになるのを美琴は必死になって抑える。 
どうせ鉄壁のガードが男子の邪な視線を撃墜するのに。気分的な問題か? と思いきや 

(うう、短パン穿いて無いだけでこんなに心細いなんて……) 

美琴は短パンを穿いてなかった。 



―――――― 


――二十分程前 

『オハナシ』をするにあたり、最初はファミレスかどこかで落ち着いてするつもりだったが、こんな時に限ってどこも満席。 
「霧ヶ丘女学院合格おめでとー!!」とか合格を祝う声が所々から聞こえてくる。 
どうやら今日はいくつかの学校の合否の発表日だったようだ。 

(しょうがない、か。ちょっと寒いけど外で――) 

近場の公園ならあんまり人気も無いし、と上条を引きずって行こうとする美琴に強い風が吹きつけてきた。 

「ひゃっ!」 

めくれ上がりそうになるスカートを必死に抑える。 
短パンを履いていても嫌なものは嫌なのだ。と、 

(……短パン?) 

ここで美琴は一つ危惧しなければいけない事に気づく。 
上条は今自分の事を妹達の一人、ミサカ11111号だと思い込んでる。 
ではそこで短パンを穿いているのがバレたら? 
肝心な時以外は抜けている上条の事だ、妹達にもそういう個性を持ったやつも居るんだろうと思うかもしれないが、そうでない可能性も十分にある。 
後顧の憂いは出来るだけ断っておかなければならない。 
そう思った美琴は疲れきった顔の上条に逃げないよう何度も言い含めて(脅迫して)から化粧室に飛び込んだ。 
271 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします  [sage saga]:2011/06/09(木) 02:19:05.18 ID:tQ1L++vf0
―――――― 
―――― 
―― 



「それで、いったいどんな訳なのか説明していただけますか? ……とミサカは再度問いかけます」 

「それは……その、だな……」 

ベンチに座った事で当面の危機は回避した美琴だが、それでもいつも身に着けている防具が無いのは心許ない。 
自然、顔はこわばり言葉は刺々しくなる。 
それに加え上条のダメ出し、更には物の試しと買った謎飲料がハズレとくれば不機嫌になるなと言う方が無理だ。 
だが、今美琴が顔を顰めさせているのは苛立ちよりももっと別の感情によるものの所が大きい。 

(何で、私じゃダメなのよ……?) 

何か理由があるのか? 
自分は頼ってもらえるほどの地位にはいないのか? 
美琴はそれが不安だった。 

(ほんと、私ってばコイツ関係の事だと調子狂うって言うか、まあ仕方ないんだけどさ……) 

普段なら絶対しないであろう妹の振りする。 
少々卑怯な手だとは思うが、それでも上条の真意を聞きだしたかった。 

「…………」 

半ば思考に没頭しつつも、美琴は腕を組んだまま上条を横目で睨み続ける。 
そんな美琴に根負けしたのか、上条は大きく息を吐いてようやく重い口を開いた。 

「…………正確に言えば、美琴がダメって訳じゃないんだ。ダメなのは、俺の方なんだよ……」 

「どういう意味?」 

「実は……美琴の、隠し事と言うか秘密と言うか……それをまあ、耳にしてしまったと言うか……」 

「秘密?」 

はて? と美琴は首を傾げる。 
歯切れの悪い上条の様子から察するに結構な事を聞いてしまったのだろう。 
しかし今美琴が抱える事情で秘密にする事と言えば妹達関連の話ぐらいなものだから上条には今更だ。 
それ以外に特別秘密にしているような事も無い。 

272 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします  [sage saga]:2011/06/09(木) 02:19:34.24 ID:tQ1L++vf0
「全部、俺が悪かったんだ……。軽い気持ちでつい、美琴の独り言を……」 

「…………へ?」 

まさか自分の名前が出ると思っていなかった美琴は思わず呆けた声を出してしまうが、すぐに気を取り直しここ数日の自分の行動を思い返す。 
いくら公園での醜態を気づかれていないとは言え、上条に会うのは少々勇気が居る。 
だから昨日までは放課後は出歩かずに寮に真っ直ぐ帰っていた。 
そんな訳であの公園での出来事の後は一度も上条に遭遇していないのだから上条が美琴の独り言を聞く機会は無い。 

「……あ」 

そこまで考えて美琴は最悪の事象に考えが至る。 
公園での出来事以降は確かに機会は無い。が、その『公園での出来事』でなら確かに上条の傍で『独り事』を呟いた。 

(で、でも、コイツはあの時気を失っていたはずで……) 

上条が気絶していたからこそ、美琴は自分の本心を吐露し、あまつさえ暴走してしまった。 
ならもし、途中から目を覚ましていたのなら? 
嫌な汗が止まらない。 

「(ま、まさか……)そ、それって……気絶してたけど、途中で目が覚めて独り言を聞いちゃいましたー……とか?」 

違うと言って欲しい、そう思い具体的な状況を上条に尋ねたが、 

「あ、ああ」 

何で分かったんだ? と上条は不思議そうな顔をするが美琴にはそんな事を気にする余裕は無い。 

「は、はは……。あははは……」 

ばれた、完全無欠に全部ばれてた。 
恥ずかしいとかそんなレベルはぶっちぎりで宇宙一周ぐらい超越した。 
頭からは完全に血の気が引き、にもかかわらず汗がダラダラと流れる顔は真っ赤になる。 
乾いた笑いをあげる事しか出来ない。 

「お、おい、どうし……」 

人は限界を超えたストレスを受けると、精神を守るため自動的に意識のブレーカーを落とすようになっている。 
いかに精神制御を極めた(ここ半年程はその限りではないが)Lv5の超能力者と言えどもそれは例外ではない。 
バチバチバチンッ!! とすさまじい音と共に誰かが悲鳴をあげるのを聞きながら美琴の意識は暗転した。

278 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします  [sage saga]:2011/07/04(月) 01:35:53.47 ID:bThIE1FY0
第四話―④ 




「どうすんだよこれ……」 

自らの膝に頭を乗せ、穏やかな寝息をたてる少女を見ながら上条は途方にくれていた。 

顔を真っ赤にして笑い出したかと思えば、突然の大放電。 
間一髪右手で打ち消す事には成功したが、気を失っていた一一一一一号がこちらに倒れ掛かってきた。 
直前の様子から「何か体に異常が出たのか!?」焦ったが、穏やかな寝息をたてる顔を見てひとまずほっとする事はできた。 

ただ、その後どうすべきかが浮かばなかった。 
上条当麻、みずがめ座の十六歳(先日誕生日を迎えた)、年齢的にも財力的にも人一人運べる『足』など持ち合わせていない。 
妹達が世話になっている病院まで連れて行くとしたら背負って行くしかないのだ。 

……男子高校生が常盤台のお嬢様を背負ってどこかに向かっている姿、穿った見方をしなくても怪しすぎる。 
人目につけば風紀委員や警備員に通報され「不幸だー!」と言うことになりかねない。 

かと言ってこのままにでいる訳にもいかない。 
時折、割りと強めの『風』が吹くのだ。 

「うっ……」 

ビュゥーッ、と風が吹く度に一一一一一号のスカートが少し捲れ上がる。 
姉そっくりの性格だがさすがに短パンまでは装備していないようで、太ももの結構きわどい位置まで見えてしまっている。 
と言うか、多分向こう側からは丸見えになっているのではないだろうか。 

(い、いかん、いかんですよこれは!) 

幸いながら、上条には知り合いの女の子をパンツ丸見えにさせて悦に入るような趣味は無い。 
だから上条はなんとか見えないようにしようと問題の原因を直そうとした。と、 

「………………、とミサカは無言であなたの行おうとしている行為を見守ります」 

「………………御坂妹?」 

全然無言じゃねーじゃんと思いつつ、上条はいつの間にやら近くに居た妹達の一人 ――以前識別用にとプレゼントしたネックレスをつけているので恐らくは一○○三二号だろう―― に視線を向ける。 
普段落ち着いた様子とは違い、妙にそわそわしてるように見えるのは気のせいだろうか。 

「はい、ミサカはあなたが御坂妹と呼称する個体です、とミサカはネックレスを弄くりつつ肯定します」 

御坂妹は上条が手を伸ばす方向に一度ちらりと視線を向ける。 

「いくら恋人同士とは言え屋外で、しかも人目につく場所でそのような行為に及ぶのは如何なものでしょうか、とミサカはこの後の展開が気になるのを隠しつつ苦言を呈します」 

「…………へ?」 

言われ上条は御坂妹の視線の先を見る。 
視界に映るのは捲れ上がったスカートを掴む自身の手。 

――捲れ上がったスカートを直すためとは言え、冷静に見ればとんでもなく拙い絵面だ。 

「い、いやこれは……」 

「どうぞミサカの事はお気になさらずに続「違うから! 絶対御坂妹が考えてるような事じゃないから!!」……なるほどミサカが近くに居ると気になって集中できないのですね、とミサカは距離をとって観「だから違うっつってんだろぉぉぉぉぉぉおおおおおお!!!!!???」」 

妙にテンションの高い御坂妹を落ち着けるのにしばしの時間が掛かった。 
279 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします  [sage saga]:2011/07/04(月) 01:36:24.65 ID:bThIE1FY0
結局一一一一一号の腰に上条の上着を掛ける事でスカートの捲れ上がりを防ぐことにした。 
とは言えやっぱりこのまま寝かせておくわけにはいかない。何より上着を貸し与えてしまったので寒くて仕方ない。 
幸い何とかしてくれそうな人物が目の前に居るのだし。 

「そうだ、こいつが突然気絶して困ってたんだよ。このままにしておく訳にもいかないから、世話になってる病院のほうに連れて来たかったんだけど背負ってく訳にも行かないし。お前の方でなんとか出来ないか?」 

「言われてみれば先程から起きる気配がありませんでしたね、とミサカは今更ながらに気づきました。先ほどミサカ達と同質で強力な電磁波の放出を観測したので様子を見に来たのですが、恐らくは何らかの要因で気を失った際に軽い能力の暴走をしたのでしょう、とミサカはどうせいつもの事だろうと推測します」 

「は? い、いつもの事って……それって結構やばいんじゃないのか?」 

「特に問題はありませんが、心配でしたら念の為ミサカが生体電流の流れを見ておきましょう、とミサカはめんどくせーなと思いつつも診察を行います」 

御坂妹はいまだ目を覚ます気配のない少女の額に右手を当て、やや間を置いてから特に問題がない事を上条に告げる。 

「ところで、ここにミサカのゴーグルがある筈なのですが、とミサカは本来の目的である果たすべく尋ねます」 

「ゴーグル? ここにこいつのならあるけど」 

上条は傍らにおいて置いあるごつい軍用ゴーグルに視線を向ける。 
さすがは発電能力者が使う装備と言った所か、短時間とは言え先程の放電に巻き込まれたにもかかわらず損傷した様子は見受けられない。 

「いえ、それはミサカの物です」 

「そうなの?」 

「はい、先程上位固体がミサカから奪ったものを押し付けられていたのです、とミサカは結局逃げ切られてしまった自らの不甲斐なさに肩を落とします」 

はぁ、と御坂妹は深いため息をつく。 
何があったかは知らないが、無表情ながらも相当に落ち込んでいることが分かる。 

「それにしても」 

「な、なんだよ?」 

御坂妹は上条とその膝で寝息をたてる少女を交互に見る。 
相変わらずの感情が感じられない瞳で見られるとなんだか今の状況を責められているような気もしてきて非常に居心地が悪い。 

「相変わらずお二人は屋外でイチャつくのがお好きなのですね、とミサカは見せ付けられてる事に少々イラッとします」 

「相変わらずって何だよ!? そもそもこの子とは初対面です!!」 

「この期に及んでしらばっくれるとは、とミサカは少々呆れ返ります。先日も公園のベンチで膝枕されたあなたを見たとの報告が入っています、とミサカは言い逃れの出来ない証拠を突きつけます」 

「だーかーらー! イチャついてたわけじゃ――って、あれは御坂だぞ? ここで寝ているのは一一一一一号であってだな」 

御坂妹は上条の言葉がすぐに理解できないのか目を数回ぱちくりとさせ、やや間を置いてから口を開いた。 

「…………もしや、お姉様と一一一一一号を間違えているのでしょうか、とミサカはいやいやそれはねーよと右手を左右に振ります」 

「…………はい?」 

間抜けな声を上げ硬直した上条だが、はっとして上条の膝に頭を乗せ寝ている少女に視線を落とす。 
ミサカ一一一一一号、思えば彼女は妹達とは思えないほど彼女の姉と同じぐらい感情豊かだ。 
いや、それ所か『御坂美琴』とよく似た言動や行動を取る。 
それこそ「私は御坂美琴よ」と言われても分からない程に。 

「勘違い、してたのか……?」 

「そもそも妹達には――――」 

勘違いをしていた、そのショックで上条の耳には御坂妹の言葉は入ってこない。それは致し方ない事だ。 
気がつかなかいうちに罪の意識を感じていた当の本人にに、罪の告白をしてしまったのだから。 

思考のループに入った上条は、それに呆れた御坂妹が立ち去ったのに気づくまでしばしの時間を要した。
280 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします  [sage saga]:2011/07/04(月) 01:36:57.89 ID:bThIE1FY0
―――――― 
―――― 
―― 



(ん……、あれ、私) 

気絶してから二十分ほどで美琴は目を覚ました。 
しばらくはぼんやりとしていたが、やがて意識がはっきりしてくると少しずつ自身の置かれている状況がはっきりしてくる。 

余りのショックを受け気絶した事。 
気絶した自分を上条が介抱してくれている事(状況を理解した瞬間漏電しかけた)。 
そして―― 



(バレちゃってたんだ、私の気持ち……) 



いつかまた、機会があれば上条に真正面から気持ちをぶつけるつもりだった。 
だが、およそ考え得る限りで最悪の形で気持ちが伝わってしまった。 
しかもその事で上条を苦しめてしまっている。 

それは、嫌だ。 

理由は何であれ、自分が原因で上条を苦しめる事などしたくない。 
悪いのは迂闊な私でコイツは何にも悪くない。 

(とにかく起きないと……) 

起きて、アンタは何にも悪くないと伝えなければ。 
そう思い美琴は少し名残惜しそうに上条の膝からゆっくりと起き上がった。
281 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします  [sage saga]:2011/07/04(月) 01:37:29.89 ID:bThIE1FY0
「……起きたのか」 

「うん」 

「さっきまで、御坂妹がここに来てたんだ」 

「あの子、来てたの?」 

「ああ、お前が預かってたゴーグルを取りに来てた」 

上条が美琴を妹達の一人と勘違いしたのは、軍用ゴーグルを持っていたからだ。 
それが御坂妹の物と分かれば勘違いの原因も無くなる。 

「ね、ねぇ……あの子、私の事何か、言ってた?」 

「…………姉と妹を間違えるとかありえねーって言われた」 

「そっ、か……」 

結局正体がばれてしまったがどの道自分で明かすつもりだった。 
それよりも彼に伝えなければいけないことがある。 

「あ、あのさ「ごめん!!」ちょ、ちょっと! 謝らないでよ! アンタは悪くないんだから!!」 

突然深々と頭を下げて謝る上条。 
慌てて美琴は顔を上げさせようとするが、上条は顔を上げようとはしない。。 

「いや、悪いのは俺だ。盗み聞きなんて、謝ってすむ問題でもないのは分かってる。でも、ごめん……」 

「…………」 

「何でもお前の気が済むようにしてくれ…………許してくれって訳じゃないけど」 

美琴は段々と憂鬱な気分が薄れ、代わりに腹が立ってきた。 

「顔あげなさい」 

言われゆっくりと上げられた上条の顔を美琴は両手で掴む。 
上条の瞳が不安げに揺れる。 
いつものような気だるげな彼でもなく、美琴が憧れた力強い意思を秘めた彼でもなく。 
酷く悲しそうで辛そうで、それが腹立たしくて。 

「……え?」 

大好きな人にこんな顔をさせてしまう自分が腹立たしくて情けなくて。 

「そんな辛そうな顔、しないでよぉ……」 

気がつけばポロポロと零れ落ちるものがあった。

291 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします  [sage]:2011/08/22(月) 01:03:12.92 ID:DuaI2gHio
第四話―⑤ 



「ごめん……」 

「いや……」 

程無くして美琴はなんとか涙を止める事が出来た。が、意図したことではないとは言えこれはとんでもない悪手だ。 
自分が泣いてしまっては結局上条が更に罪悪感を重ねてしまうだけだ。 

(どうして、私はいつも……!) 

いつもいつも、上条に対しての行動は空回ったり裏目に出たりするばかり。 
自分からのアプローチで良い目が出たことなんて欠片も無い。 
そんな事を思っていると再び涙腺がゆるくなり―― 

「ッッ!!」 

慌てて制服の袖でごしごしと目元を拭う。 
もっとも、今更泣くのをごまかした程度でこの重苦しい空気がどうにかなるわけでも無いが。 

「…………」 

横目で隣を見れば上条は前屈みで力無くうな垂れている。 
自分の責任とは言え、彼のそんな姿は余り見たくない。そんな事よりも―― 

「どうすれば笑ってくれるの……」 

「……へ?」 

「っっっ! い、いやそのっ……」 

ついポロッと考えてた事が口から漏れた。 
美琴がどうにか取り繕おうとアタフタとしていると、上条は引きつった笑顔で「わ、わははは」などとわざとらしい笑い声を上げている。 
「空気を読んで聞こえなかった振りぐらいしろこの馬鹿!!」とか「いつもは聞いて無いくせに何で今回に限って聞いてるのよ!!」とか。 

いつもならそんな感じで騒いで終わるところだが、生憎と今日はおふざけではすまない。 
このまま今日と言う日が終わってしまえば、上条との関係は気まずいままになってしまう。 
ならばもう、今日を自分の汚点ではなく転換点にするしかない。 

美琴は目を瞑り、自らの気持ちを整える。 
自分の心の内を晒してしまおう。 
どうせ一番の隠したい事はバレてしまっているのだ、これ以上どうにかなるものでもないのだから。 
292 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします  [sage]:2011/08/22(月) 01:03:44.45 ID:DuaI2gHio
「……前に、あの実験妹達を助けてくれた後、アンタ私に『お前は笑って良いんだよ』って言ってくれたの、覚えてる?」 

「え、あー……そ、そんな事言ったような?」 

罰の悪そうな顔で言葉を濁す上条に美琴は苦笑する。 
上条が覚えていない事はなんとなく予想はしていた。この底が抜けて地球の中心まで落ちていきそうなお人好しの事だ、考えて口に出した訳ではなく自然に湧き上がった言葉を言っただけなのだろう。 

「アンタにとっては何気ない当たり前な言葉でも、私にとっては特別だった。もしアンタの言葉が無かったら、私は二度と心から笑うことは出来なかったかもね」 

目をぎゅっと瞑り、でもねと声を震わせて続ける。 

「今は笑えない……アンタが辛そうにしてるのが辛いの。私の中のアンタが大きすぎて、アンタが笑ってくれないと私、もう笑えないよ……」 

美琴は俯きながら肩を震わせる。 
もっと上手く言葉を選んで上条に伝えるつもりが、途中から感情が昂ぶってしまいこの様だ。 
せめて涙は流すまいと、手をぎゅっと握り締め唇をかみ締める。 

数秒後か数分後か、今度は上条の言葉で沈黙が破られた。 

「ごめん」 

先程と同じ言葉だが声色は辛そうなものではなく優しいものだ。 

「馬鹿だよな俺、お前の事分かろうともしないでただ謝るだけで。こんなに俺の事を思ってくれてほんと、すげー嬉しいよ。笑ってくれって言われなくたって顔が自然ににやけちまうぐらい。だからさ――」 

ぽんっ、と美琴の頭に上条の手が置かれる。 

「上条さんとしても、一緒に笑って欲しいと思うわけですよ」 

それは美琴の涙腺に止めを刺すには十分なものだった。 
293 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします  [sage]:2011/08/22(月) 01:04:12.58 ID:DuaI2gHio
―――――― 
―――― 
―― 


持っていたハンカチが涙でぐっしょりと濡れてしまった頃、ようやく美琴の気持ちも落ち着いてきた。 
ほんと、コイツの前では感情の歯止めが利かない。 
自分の全てをさらけ出して良いと思ってはいるが、恥ずかしいものは恥ずかしい。 

「なんつーか、ほんとねーちゃんとそっくりだよな」 

「……ねーちゃん?」 

以前とある事情(私情)で書庫にハッキングして上条の個人情報を目にした事はある。 
その時は能力の事ばかりに目がいって家族構成なんかは記憶していない。 
大覇星祭の時も上条の両親とは会ったがその時は姉らしき人は――まさかあのちびっ子シスターがこいつの姉とか? いやいやそんな馬鹿な。 

――美琴の思考が逸れている間に「怒りっぽい所と泣き虫な所が特になー……」と上条が呟いたのを美琴が聞かなかったのは幸いだった。 



(私、何にも知らないんだなー……) 

知り合ってから半年以上になると言うのにほとんど何にも知らない事を改めて認識し、愕然とする。 
同時にもっとコイツの事を知りたい、私の事を知って欲しいと思う。 
家族の事、友達の事、毎日の些細な事。 

そして―― 

「ねえ、アンタは私の事、どう思ってるの?」 

「……どう、って?」 

「私は、私はアンタの事が――」 





――好き。
294 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします  [sage]:2011/08/22(月) 01:05:01.09 ID:DuaI2gHio
美琴自身びっくりするぐらい、何でもない事の様に言葉が出た。 
今までの障害、葛藤が馬鹿らしくなるぐらい簡単に。 

「それで、アンタはどう、なの?」 

「……俺は――俺はまだ、自分の気持ちが分かんねぇんだ。最初にお前の気持ちを盗み聞きで知っちまった時、どうしたらいいんだって思うだけで何にも考えられなかったんだ」 

ほんと情けねぇよな、と上条は自嘲気味に笑う。 

「正直言って、お前の気持ちはすげぇ嬉しいよ。でもいろんな事がありすぎて、まだ自分の気持ちに整理がつかねぇんだ。だから少し、時間をくれないか」 

「……少しってどれぐらいよ」 

「いや、それはその、とにかく少しは少しと言いますか……」 

ごにょごにょと言葉尻を濁す上条を見て美琴はため息をつく。 
さすがに有耶無耶にはされないとは思うが、こっちから尻を叩いてやら無いとずるずると引き延ばされてしまいそうだ。 

「……三日、それだけ待ってあげる。それ以上は一分一秒でも待たない」 

「三日、ですか……」 

「文句あんの?」 

ギロリと睨み付けて上条を黙らせる。 

本音を言えば三日でも待つのは辛い 
今だって段々と恥ずかしさやら不安やらが込み上げてきてるのだ、あんまり待たされ過ぎたら気が変になってしまう。 

「それじゃ、待ってるから……」 

それだけ言うと美琴は上条に背を向け逃げるように走り出した。 

「お、おい――――! ――――!!」 

平静を装っていたが、実は既に美琴はいっぱいいっぱいだった。 
つまり『逃げるように』は間違いで、事実逃げ出していた。 
後ろで上条が何事か叫んでいたが、そんな美琴の耳には届かなかった。
295 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします  [sage]:2011/08/22(月) 01:05:47.34 ID:DuaI2gHio
―――――― 
―――― 
―― 



次の日、美琴は早速上条から呼び出された。 

昨日の様子から期限ギリギリまで待たされると予想していた美琴はある意味ほっとした。 
何しろ上条と別れてから期待と不安で心が激しく揺さぶられ続け、食事や睡眠もろくに取れず既に参ってしまっていた。 
期限ギリギリまで待たされれば間違いなく自分は倒れてしまっただろう。 
そうなれば白井を始めとする周囲の人間が必要以上に騒ぎ立て、返事を聞くどころの話ではなかっただろう。 




「おっす御坂、待たせたか?」 

「う、ううん。今来たところだから」 

間も無く待ち合わせ場所に訪れた上条に声を掛けられ美琴は身を硬くするが、特に思いつめた様子に見えない上条を見て笑顔を浮かべる。 
期待しすぎるのは良くないと思ってもとてもお断りの返事をされるようには見えない。 
それに仮に返事が悪いものだった場合でも暗い雰囲気では上条も答えづらいだろう。 

「ん? お前大丈夫か? 顔色も良くないし、目も真っ赤だぞ? 調子悪いなら無理して出てこなくても……」 

「だ、大丈夫! ちょっと寝不足なだけだから!! それよりも、ほら、話があるんでしょ?」 

気遣ってくれるのは嬉しいがさっさと返事を聞かせて欲しい。 
ここで延期でもされるものならその方が余計に体調が悪くなってしまう。 
そんな思いと一晩中すり減らされた神経とが合わさり、美琴は上ずった声で叫んでいた。 

「そ、そうか?」と美琴の妙な迫力に押された上条も大人しく話を続ける。 

「じ、実はさ」 

「実は?」 

「お前の妹に告白されちまってさ」 

「……………………はぁ!?」 

いきなり雲行きが怪しくなった。 
お前は告白の返事をしに来たんじゃないのかとか、何はにかんで嬉しそうに別の女に告白された事を話してるんですか、とか。 
美琴が暴発しなかったのは予想外の事でいきなり思考のリソースが食い潰されてしまったせいだろう。 
296 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします  [sage]:2011/08/22(月) 01:06:59.79 ID:DuaI2gHio
「いやー、女の子に告白されるなんて一生に一度の事で上条さん舞い上がっちゃいまして。なあ返事ってどんな風にしたらいいと思う?」 

「……さぁ、好きにすれば……」 

「うーん、そうだよな。やっぱそういうのは自分で決めないと」 

私への返事はどうしたんだと。 
他の誰と付き合おうが良いが(良くないけど)せめて告白の返事はきちんとするのが礼儀なのでは無いかと。 
美琴の中で沸々と怒りが溜まり声が不自然に平坦になるが、上条は気づかず続ける。 

「あ、そう言えばさ、そいつ自分の事『ミサカ一一一一一号』ってだけしか教えてくれなくてさ。お前連絡先とか知ってる?」 

「さぁ……」 

「うーん、そっか。御坂妹なら知ってるかな?」 

何となく『ミサカ一一一一一号』と言う名を聞いた事があるような気がしたが、今はそれどころではない。 
既に臨界点に達している美琴は、落ち着いた平坦な言葉で上条に最終弁論を求める。 

「アンタ、私に何か言う事は無い訳?」 

「お前に?」 

うーんと唸りながら首を傾げる上条。 
ややあって何かに気づいた表情を浮かべる。 

「妹さんを僕に下さい」 

キリッと擬音がつきそうなクソ真面目な顔の上条に美琴は全力で電撃を叩き込んだ。 

「い、いきなり何しやが――」 

「うるさいこの女の敵!! そんなに妹って響きが好きか!!?」 

「ばっ! 人聞きの悪い事言うな! ってか何だってんだ急に!? あれか、妹が欲しけりゃ私を倒してけってか? いいぜ、てめぇが俺の恋路の邪魔――あ、嘘ですすいませんごめんなさみぎゃああああああああああぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」 




――後日、無事? 一一一一一号と連絡の取れた上条は余りに話が噛み合わず、あれは全て自分の妄想だったのかと真剣に悩んだとか。 

結局上条と美琴、双方の誤解が全て解けるまでかなりの日数が掛かったと言う。 




「待てって言ってんでしょうがコラアアアァァァ!!」 

「不幸だー!!」 

「私の方が不幸だーーー!!!!」 





御坂美琴の超!スルー伝説・おしまい 

297 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします  [sage]:2011/08/22(月) 01:14:25.69 ID:DuaI2gHio
ようやく終わった、何でこんな長くなってしまったんだろ。 
この第五話は要するに頑張って気持ちを伝えたら妹と勘違いされてたでござる、とそういう訳です、はい。 
要約すると一行で書けるのにどうしてこうなった……。 

何はともあれ完結です。 
今まで見てくださった皆さん、ありがとうございました。 
ではまた機会がありましたら (*゚▽゚)ノシ 


※分かりづらい文章の補足説明 

>>281で御坂さんは上条さんに正体ばれたと思ってますが、上条さんはずーーーっと御坂さんを一一一一一号だと勘違いしたまんまです。(遡ってバレンタインでチョコくれた所まで一一一一一号だと) 


298 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします  [sage]:2011/08/22(月) 01:17:27.76 ID:G5PhPf2IO
乙です。 

さぁ次は美琴とインデックスのいちゃラブもしくは、魔術サイドにフラグ建てる美琴を書き溜める作業を開始して下さい


302 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします  [sage]:2011/08/29(月) 02:19:44.24 ID:fUGnx59SO
お疲れ様です 
素晴らしかったです
関連スレ
美琴「あなた、病室間違えてない?」禁書「……、っ」
(だいぶ書き方がちがいますが同じ書き手です)

お勧めのスレ
インデックス「ご飯くれるとうれしいな」一方通行「あァ?」

上条「誰か御坂と恋人になってくんねーかな」

上条「もしかして俺のこと好き?」 美琴「ううん。大好き。」




元スレ:美琴「あなた、病室間違えてない?」禁書「……、っ」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1291058297/